「補助金依存」からの脱却(3)

森づくり

―管理コストをかけない林業経営の道筋―

 現在では、戦後に植林された人工林の多くは50~60年生を中心に成長してきており、収穫して木材資源として活用できる大きさに成長してきています。木材生産には長い歳月が必要であるため、農作物のような1年をサイクルとした短期的な投資と回収にはなりません。しかし、森林経営には立木を収穫可能な状態のまま長く在庫としてストックできるという特徴があります。さらに在庫としてストックする森林の管理にはほとんどコストがかかりません。また、ストックしている間も木は成長をし続けるので在庫量は増え続け、利用間伐や択伐(森林状態を維持しながら必要な樹木を伐採・更新する)により中間収入を得ることも可能となります。

 かつての薪炭林業は自然力を活用して育林にコストをかけない合理的な森林管理によって成立していましたが、拡大造林政策によって戦後に植林されたスギ・ヒノキは、当初から公的な補助金を使って育林をする体制がつくられて現在に至っていることがわかりました。このように、公的補助金の投入によって育成されてきた多くの人工林を、今後、どのように経営管理していくかが森林・林業の大きな分岐点であり「補助金依存体質」から脱却する大きなチャンスでもあると考えています。
 戦後の建築材不足の時代に柱材生産の目的で40~50年伐期で皆伐する前提で植林された日本の人工林ではありますが、現状では途中で管理を放棄されたり、当初の利用目的や生産目標が不明確になってきています。このような人工林については、再び育林コストや災害リスクの高い皆伐による更新はせずに、自然力を活かした長期的管理による管理コストのかからない人工林管理を目指していくことが得策となると思います。
 搬出間伐が可能な森林については間伐材の販売収益で事業費の補填をはかると同時に、木が大径化すれば間伐材の販売収入で施業費を捻出でき、所有者にも収益が還元されるようになります。また、適切な間伐が実施された人工林は総体的に災害に強いと言われています。

 森林経営の基本は利子で収益を得ることです。かつて国有林の保続計算プログラムの開発に携わったことがありますが、保続計算によって森林の「年間成長量」を上回らないように「標準伐採量」を算出して森林資源を枯渇させないように管理することが森林経営の基本であると教えられました。
 これを数値で見れば、平成30年の林業白書によれば、『主伐期にある人工林の直近5年間の平均成長量を推計すると、年間で約4,800万m3程度と見込むことができ、主伐による丸太の供給量は、近年増加傾向にあるものの、平成27(2015)年度でも1,679万m3である。これは、主伐期にある人工林の成長量と比較すると4割以下の水準となっており、資源の循環利用をさらに進めていくことが可能な状況となっています。また、森林全体の総成長量(約7,000万m3)と木材の供給量(2,714万m3)には更なる乖(かい)離があり、その程度は欧州の林業国と比較しても非常に大きくなっているなど、一層の森林資源の活用を図ることが可能な状況である』と記載されています。
 つまり、日本の人工林を現在の2.8倍の材積を伐採をしても数値上は保続管理できる計算になります。しかし、このことを根拠に「人工林をどんどん伐採して、再び公的補助金を使って育てましょう」と言う理由付けにはならないのではないでしょうか。

 その理由は日本の人工林が50~60年生となり伐期に達したというけれど、この伐期の概念は植林したスギ・ヒノキから柱材のとれる太さに成長する期間で定められたもので、人間で言えばやっと成人して育児や子育てにお金がかからなくなって、これからは自立して成長していける状態になったばかりという状態です。林業白書で比較している欧州の林業国の一つドイツではどのように森林を経営管理しているかというと、ドイツ在住のジャーナリスト池田憲昭さんによれば、ドイツの森林と日本の森林の違いは、日本の人工林の齢級構成が50~60年生をピークとして若齢級の森林と高齢級の森林が少ない山型の偏った齢級構成となっているのに対し、ドイツは非常にバランスよく80年生以上の大径木がたくさん残っているそうです。
 ただ、ドイツでも、日本が昭和30~40年代に経験したことを200年前の産業革命の時代に経験しており、当時、主に燃料としてたくさん木材が必要で、多くの森林が伐採されたようです。その結果、多くの森林が荒廃し、その後どうにかしなくてはいけないということで、主にトウヒ、モミ、マツなどが植えられ、そこから成長する分だけを伐採する持続可能な利用が行われ、現在の齢級構成ができ上がっており、現在ではドイツの木材利用は80年生以上が主になっているとのことです。
 したがって、ドイツ林業は基本的に大径木で収益をあげる循環型の林業となっているのが特徴です。一方、日本は、今50~60年生にやっと達したという段階の細い木なのでなかなか収益を上げにくい。さらに、大径木もほとんど残っていないので、日本は人工林がやっと伐期を迎えたといっても、ドイツのような循環型の持続可能な木材利用ができるまでには、もう少し長い道のりが必要であることを頭に入れておかなければならないと思います。

 また池田氏によれば、ドイツの伐採方法は、基本的に皆伐は禁止となっており、大径木を伐採しながら同時に更新させていく方法をとっているそうです。80年生、120年生、140年生、200年生、300年生という木を択伐的に伐採しながら、天然更新が可能な場所は天然更新を促し、これにより、大体30~50年くらいの期間で伐採・更新が進んでいくそうです。大体5~10年おきに同じ林地に入って、少しずつ丸い穴を大きくしていく、または帯状の線を広げていくという非皆伐方式で林業が行われています。もちろん、部分的に植林が必要なところもあり、土が弱っている場合には広葉樹を少し植えて土を固めるほか、広葉樹を針葉樹のすき間に植える。また、風害や虫害などで一面駄目になった林地など天然更新が難しくなった場所には植林を行うということです。したがって、ドイツの森林管理は日本のように同一樹種・同一林齢の木が面的に存在するのではなく、林齢や樹種の異なる樹木が入りまじって生えている異齢林となっています。したがって、日本のように森林を齢級や樹種で面的に管理することはせず、径級による管理が行われてるということです。

 100年生以上の高齢級の森林がほとんど伐採しつくされた日本で、このような非皆伐施業を基本とするドイツの森づくりを実現するには、最低でもあと50年の月日が必要となります。その間に現在の50~60年生の人工林を大径木に育成しなければなりません。間伐で枝葉の少ない木を残しても、大径木にはなりませんし、自然災害にも弱い森林となってしまいます。森林を長期管理による大径木化するには、選木作業に一定水準の技量と能力が求められます。また、50~60年生に達した人工林の間伐材は、細いと言っても利用径級には十分に達しているので、可能な限り搬出利用して収入を得ることが「補助金依存体質」からの脱却に繋がりますし、伐出に必要な林道・作業道のインフラ整備を進めることは将来の森林管理のインフラとして生かされることだと思います。

 森林生態学者の藤森隆郎氏は『長伐期施業の延長上には非皆伐の択伐林施業があり、そうなれば伐期の概念は薄れていくと思います。長伐期施業から択伐林施業に向かっていくことにより、生産基盤と経営基盤が高められると思います。択伐林施業は知識集約度の高い施業であり、優れた技術者を必要とします。したがって林業は知識集約度の高い産業であり、環境と生産の調和の図れる、社会にとって不可欠な、誇りの持てる産業であるはずです。』と述べています。

 補助金に頼らない自立経営が可能な一部の森林については皆伐再造林施業を選択することも一つの選択肢でありますが、日本の林業の「補助金依存体質」を断ち切るには、管理コストのかからない「非皆伐施業(択伐)」に向けてしばらくは間伐を繰り返していき、将来的には間伐の補助金を廃して、多間伐施業から択伐施業に転換していくことが日本の森林と林業の再生につながるのではないかと思うのですが。

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