「補助金依存」からの脱却(2)

森づくり
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―今ある人工林の成立過程と補助金―

 今日の日本の林業が「補助金依存体質」になっていることは業界の方であれば周知の事実であり、このことは先に書いた通りです。この日本の林業が抱える大きな「課題」を解決しないまま、再び人工林の皆伐を推進し、皆伐後の植栽、獣害対策、保育(下刈り、除伐、間伐)を補助事業で進めようとしている日本の林業行政の在り方に疑問を抱く人は少なからずいると思います。
 林業の現場で働く多くの人たちも本音のところではそう思っていても、補助事業で今の仕事が成立していることが分かっているので「補助金依存体質」に疑問の声を上げにくかったり、むしろ、開き直って補助金の増額を行政に要求することを選ぶ人たちが多数派になっているのが現状だと思います。

 日本の造林事業に関わる補助事業を少し整理するために、戦後植林された人工林がどのように成立してきたのかを少し整理してみることにしました。
 戦後の復興期に当たる昭和30~40年代までは森林は富の象徴であり、沢山の山を所有する「山持ち」さんは「お大尽(だいじん)」と呼ばれ地域の資産家でした。森林の価値が上昇したのは、戦後の復旧・復興用の木材の需要が急速に高まり、木材の価格が急騰して山の資産価値が上昇した時代がしばらく続いたからです。だから、その時代の森林は富を生み出す「打ち出の小槌」となり「森林=財産」だったわけです。
 しかしながら、同時期に森林の過伐採によって国内の森林資源が枯渇して、戦後すぐのころの写真を見ると、どこの農山村も背景の山はいわゆる「はげ山」となっています。このように森林の裸地化が進んだ結果、昭和20~30年代には各地で台風等による大規模な山地災害や水害が発生するようになります。

 このため、国土の保全や山地災害の防止の面からも、森林の造成の必要性が国民の間に強く認識され、伐採跡地を早期に回復することと、建築用材の需要が増加して薪炭材の需要が減少したことから、多くの広葉樹の伐採跡地がスギ・ヒノキの人工林に転換されていきます。これらの造林事業は拡大造林政策と呼ばれて、主に森林所有者自らによって公共事業(造林補助事業)として実施されています。また、所有者自らの努力では植栽できない箇所については、森林開発公団(現在の独立行政法人森林総合研究所)や造林公社(現在の森林整備法人)が当面の費用を負担する「分収造林方式」による森林整備も行われました。さらに、当時の木材価格の状況から、補助事業によらず融資等による造林も行われていたようです。(「我が国の森林整備を巡る歴史」-林野庁より抜粋)  
 しかしながら、これらの人工林の育成には多大な時間がかかり、植林木が収穫ができる大きさに育つには最低でも40~50年ほどの年数がかかります。また、植栽直後には下刈りや除伐と言った保育作業に育林コストも掛かります。この時代の造林事業(植栽・下刈り・除伐等)は、多くは補助事業として実施されることが多く、また、これらの作業は所有者自らや地域の人たちを雇用することで実施することが多かったため、造林補助事業で山村地域に雇用を生み出すことができました。したがって、この時代までは所有者にとっても地域にとっても人工林はお金を生み出す「打ち出の小槌」であったと考えられます。

 植林後20~30年が経過すると1回目の間伐作業の時期になりますが、この時期になると農林業を生業にしてきた山間地域で生活する人たちの多くは勤め人となり、山林からの収入を期待しなくても生活が成立するようになります。また、間伐作業はチェンソーの技術も必要で、木が大きくなるにつれて作業の危険性も増しますので、所有者自ら作業することことが難しくなり、作業は森林組合などの事業者に委託することになります。間伐材は当初に予定していた杭丸太や足場丸太などの小径丸太の需要が減り、切り捨て間伐が主流になります。
 この間伐作業も多くは造林補助事業として実施されましたが、切り捨て間伐では間伐材の売上収入が得られないので、補助金は森林組合等の作業員の労賃に充てられ森林所有者の収入にはなりません。この頃から、所有者にとって人工林はお金を生み出す「打ち出の小槌」ではなくなります。

 このような背景で、所有者の間伐意識は上がらず、国や県などが間伐キャンペーンを繰り広げて公的補助金による間伐を推進してきました。しかし、所有者の世代交代や人工林への無関心から間伐がされずに放置される「放置人工林」が増加するようになります。適切な間伐が実施されない「放置人工林」の増加に伴い、過密状態になった人工林は自然災害に脆弱で、大雪や台風などによって雪折れや倒木の被害が多発するようになります。被災した人工林は復旧されずそのまま放置されることも多く、人工林の荒廃がよく目につくようになり、人工林は「価値の無いもの」「地域のお荷物」という認識に拍車がかかる原因にもなり、「放置人工林」が社会問題として顕在化してきて、森林ボランティア活動による間伐作業も各地で盛んにおこなわれるようになったのもこの頃です。

「補助金依存」からの脱却(3)へ続く

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